2026.1.28 Release
Trailer

INTERVIEW

ピノキオピー『UNDERWORLD』
全曲解説インタビュー

文・取材=北野創

ピノキオピーの通算7作目となるニューアルバム『UNDERWORLD』は、混沌とする現代社会を映し出す鏡のような作品だ。

「アポカリプスなう」で描かれる欲望にまみれた街、「T氏の話を信じるな」で警鐘を鳴らす盲信の危うさ、そして「不死身ごっこ」で暴く強がりの悲哀。自らが抱える閉塞感や、現代社会にはびこる欺瞞、逃れられない絶望と対峙し、悩み抜いた末に生まれたこれらの楽曲群は、シニカルでありながらも、その奥底には強烈な"生"への渇望が渦巻いている。

そこにあるのは単なる冷笑ではない。地獄のような状況下で、それでも"普通"を愛し、不器用に戦い続ける者たちへの賛歌だ。ピノキオピーがこの"地下世界"から発信する、逆説的な希望のメッセージの深層に迫った。

――

ニューアルバムのタイトルは『UNDERWORLD』。CDの帯には「地獄だとしても。」というキャッチコピーが添えられていますが、どこか切実さのある作品に感じました。

ピノキオピー:

いやあ、そうなんですよね。最初は自分が絶望していることに僕も気づいていなくて。前作の『META』以降に発表した楽曲が溜まってきたので、そろそろアルバムを作ろうとなった時に、はじめは"初期衝動"みたいな荒々しさをテーマにしようと思ったんですけど、いまいちしっくりこなくて。そんな時に、2021年にmui(ピノキオピーの個人レーベル)として独立以降、一緒に制作を行っているディレクターから「"絶望"が根幹にあるのでは?」と言われて、腑に落ちたんですよね。収録曲の中で一番古い「アポカリプスなう」(2023年8月18日配信)は、"地獄でも「普通」を愛していたいわ"と歌っていますし、なるほどと思って。そこからアルバムのテーマが決まって、タイトルは"地獄"や"冥界"を意味する『UNDERWORLD』になりました。

UNDERWORLD ジャケット
――

『META』のリリースインタビューで、今後の展望として「『ドラえもん』のように世間的にもっと広まるようなものも作れたら」と語っていましたが、その後にリリースした最初の楽曲が結構毒のある「アポカリプスなう」だったので、「あれ?」と思ったのを覚えていて。

ピノキオピー:

全然違いましたね(笑)。『META』を作り終えた直後はポジティブだったんですけど、『META』で"メタ視点"の楽曲をたくさん作ったので、一旦そこから離れて、原点回帰じゃないですけど自分の中から湧き上がるものを作ってみたいとなった時に、結局、当時のシーンで戦うためのアプローチも考えなくてはいけなくて、自分が何を作ればいいのかがわからなくなってしまったんです。正直、そのスランプからは未だに脱し切れていないんですけど、たくさん迷ったなかで最初にできたのが「アポカリプスなう」でした。自分自身が立ち行かないことの焦燥感もそうですし、僕の本心が届かないことに対する無力感だとか、ネットを取り巻く感情や状況への絶望、シーンが過激なことをやれば受ける方向になりつつあることへの憤りのようなものからできた曲で。実際、この曲も最初の方は刺激的な言葉を羅列していますけど、そういう曲に見せかけて真逆のことを歌っているんですよね。地獄のような環境に抗いたい気持ちから生まれた曲です。

――

クリエイティブに対する苦悩や今の世の中に感じる閉塞感が、創作の原動力にもなっていたと。

ピノキオピー:

とはいえ前向きではあるんですよ。地獄の中で希望になる何かを探したい、自分が思う新しくて面白いものがたくさんの人に伝わってほしい、という思いはあって。実際、今回も良い作品ができたと思うんですけど、納得いくものに辿り着くまでに、以前よりも時間がかかるようにはなりました。ほぼ完成していた曲を白紙にして新しく作り直すことを、今までで一番繰り返しましたね。ボツにした曲が7曲くらいあります。

――

本作には「アポカリプスなう」以降に発表してきた楽曲が収録されているわけですが、全体的にシニカルさが前景化した印象もあります。

ピノキオピー:

それは僕が本当に絶望しているからだと思います。以前に「最近のピノキオピーは"絶望ポルノ"をやっている」という意見を見かけたことがあって。要は"感動ポルノ"の逆で、絶望を見せることで人を引き寄せているという話なんですけど、僕は戦略的にそうしているわけではなくて、今の世の中に対して真っ当に絶望していて、その上で希望の見える曲を作ろうとしているだけなんですよね。「あれ?意外とみんなは絶望してないのかな?」と考えたりもしますし、その温度差に絶望を感じることもあって……だから、ポーズではなくちゃんと絶望しているし、ちゃんと絶望したものができました。

――

具体的に世の中のどんな部分に嫌気がさしているのでしょうか?

ピノキオピー:

いろいろありますけど……人間が思考できることには限界があって、何が正しくて何が正しくないかはわからないことがあると思うんですが、それに対してはっきり「こうです」と答えのように断定する人がいて、多くの人が「あ、そうなんだ」と信じてしまうような状況が、今はいたるところにあると感じていて。もっと色んなことを疑わないといけないし、色んな方向から物事を見ることが大切だと思うんですよね。ただ、そういうことを伝えたくて楽曲を作ると「皮肉」とか「冷笑」って言われたりするんですよ。僕からすると「え?冷笑の範囲ってそこまで入るの?」って思うんですけど。

――

先ほど「僕の本心が届かないことに対する無力感」とおっしゃっていましたが、そのことに対する歯がゆさがあると。

ピノキオピー:

自分はフォークソングが好きで、そういう真っ直ぐなメッセージを込めた曲を書きたい気持ちがあるんですけど、それだと広がりが生まれないこともわかっているんですよね。実際わかりやすく前向きな曲も書いているんですけど、それに対する反応が他に比べて結構乏しくて(苦笑)。だから自分に合っているのは、一見するとラディカルだけど、その奥に大切なものを込めて伝えるというやり方だと思うんですけど、そのバランスを取るのがとにかく難しい。そこでずっと悩んでいる感じです。

――

サウンドメイクの面では、『META』以降のモードとして意識したことはありますか?

ピノキオピー:

『META』の頃は音数を絞ってミニマルをテーマに曲を制作していたのですが、次はもっとエッジーな音作りにしたい気持ちがあったので、音数は絞って少なめにしていますけど、『META』の時より雑然としているというか、荒々しい感覚が欲しいなと思いながら作っていました。これは無意識なんですけど、やっぱり絶望に対して音で抗いたい気持ちがあったのかもしれないです。きっと僕自身がパンキッシュなものを求めていたんでしょうね。自分自身が迷いまくって閉塞感があったが故に、それとは真逆の音作りをしたかったんだと思います。

Illustration by Oguchi / Web design by Tanchiky